2023年10月20日に、Oldina NurseryとForico Nurseryという2つの異なるナーサリー(育苗施設)を訪問しました。今回の訪問は、友人のMolly MarshallとAndyにガイドしてもらって実現したものです。
Oldina Nurseryは多種多様な在来種の苗が所狭しと並んでいました。これらは全て、プロの育苗家であるJim McLeodさんが、顧客からの注文に応じて育てているものだそうです。ここでの顧客には、ランドケアのグループが含まれます。珍しいタスマニアの雨林の苗や北西部の灌木(shrub)、ブッシュの木(例:Kunzea ambigua)、野生の花(例:Micromyrtus ciliata alba)、ユーカリの木(Eucalyptus cinereaをはじめ、多種)が揃っています。
写真1. Oldina Nurseryの様子。こぢんまりとしたナーサリーですが、この一帯だけ、遺伝的多様性がすごいことになっているはずです。
写真2. Jim McLeod氏と記念撮影(右:筆者)。Living with Plants: A Guide to Revegetation Plants for North west Tasmania (Sue Gray氏との共著、2005年)まで頂きました。
写真3. Oldina Nurseryから出荷された苗は、こうした場所での植林に使われています。この写真はFreestone Coveというところの沿岸部で、土壌浸食の問題が起きているため、護岸のために在来種の植林が行われています。ちなみに、ここの植林はWynyard Landcareのグループによって実施されました。
Oldina Nurseryを訪問した後は、Foricoという林業の会社によって経営されているナーサリーを訪問しました。彼らのウェブサイトによると、Foricoはタスマニアで最大の私有林(約17万ヘクタール)を保有する会社です。サステイナビリティを企業理念として大切にしており、FSC認証やCoC認証を取得するとともに、毎年、『自然資本レポート』を出しています。
Forico Nurseryの印象を一言で言うと、とにかく巨大で、とても効率的な運用がされていました。もっとも、オーストラリアを探せば、他にもっと大きなナーサリーもあるのかもしれませんが、Oldina Nurseryと比較するとその違いは歴然としていました。彼らは4種類ほどの苗(Radiata Pine, Eucalyptus globulus (Tasmanian blue gum)など)にフォーカスして育てています。
写真4. Forico Nurseryでは育苗の種類は少ないものの、大量生産をするためのシステムが整っています。
写真5. 十分に育った苗。これらは出荷OKの状態ですが、中には「育ち過ぎ」のものもあるそうです。どうしても屋外で苗を管理する都合上、気象条件によってどんどん生育してしまう場合があり、そうした苗は出荷できないそうです。(写真左:現場責任者のScipio Luttmer氏)
今回、全く異なった2つのナーサリーを訪問して、その違いを学ぶことができました。どちらのナーサリーも高度の専門性が要求されます。Oldina Nurseryは小規模で、機械設備はあまり用いませんが、多品種の苗を顧客のニーズに合わせて生産するという特徴があります。一方で、Forico Nurseryは大規模かつ資本集約的で、少品種の苗を大量に生産できるという特長があります。ここで強調しておきますが、どちらが良いとか、どちらが悪いとかいうことではありません。どちらも生態系の再生に不可欠な役割を果たすからです。例えば、ランドケアグループの中には、ある特定の昆虫や鳥を呼び込むために、希少な植物を植えたいと言うニーズがあるかもしれません。そうしたグループには、Oldina Nurseryは無くてはならない存在です。一方で、ランドケアグループの中には、広大な土地に植林をして、コリドーを作ったり、植生を回復しようとするプロジェクトを実施したいというニーズもあるでしょう。そうしたグループにとっては、特定の苗を大量に購入する必要があり、Forico Nurseryの方がニーズに合っています。こうしたニーズの多様性に対応できるナーサリーが存在することが、生態系保全やNature Positiveの実現にとって、きわめて重要と言えるでしょう。こうしたローカルのナーサリーによって、ランドケア活動や環境再生プロジェクトが支えられているのです。
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